昨日の今日

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お笑いとテレビと映画と本と音楽と…

ヨーロッパ企画『サマータイムマシン・ハズ・ゴーン』

f:id:You1999:20211009010821j:imageなんて楽しいお祭り!そう深夜25時に始まった『サマータイムマシン・ハズ・ゴーン』はお祭りであった。まずもってヨーロッパ企画の劇団員がその会話劇によって場を盛り上げ、そのあとに上白石萌歌矢作兼、久保史緒里というあまりにも充実した役者が登場するという楽しすぎるオムニバスドラマ。題名に“サマータイムマシン”とついているのだから、やはりヨーロッパ企画上田誠お得意のタイムリープものであり、実際、本作に出ているタイムマシーンも、『サマータイムマシン・ブルース』に登場するものとまったく同じであることにも胸がときめいてしまうことでしょう。「もしも、あのとき…」というありえたかもしれない未来を想像し、過去を思い返すなどの、タイムリープの定石を綺麗にたどりながらも、そこかしこに遊び心があり、縦横無尽に快活なカメラの動きなど、少し遅れてやってきた楽しい夏ドラマだ。中年になったかつての映画サークルメンバーが過去のことを懐かしむ会話劇の面白さを展開しながら『サマータイムマシン・ハズ・ゴーン』は幕を開ける。

〈リマインド〉

キャッチャー・イン・ザ・リープ 発売!

というリマインドが映し出される画面を見つめる上白石萌歌が本屋に向かうシーンから始まる物語。熱心なSFファンであるらしい彼女はお目当ての本をレジへと持っていく。その瞬間、ある男とぶつかり、恋が始まる。

偶然の恋、運命の恋、私たちは刹那に恋に落ち、輝く季節を駆け抜け、そして…

そしてまた繰り返す夜の途中で

adieu『春の羅針』

輝く季節を駆け抜けた恋人たちは些細なきっかけから別れることになってしまう。相手への憤りからこんなことになるのならば出会わなければ良かったのだ、と過去へとタイムリープし、あのときの偶然の出会いを回避しようとする。しかし、何度やっても出会ってしまう。その度にタイムリープを繰り返す。その繰り返しのなかで、出会いを回避するのではなく、無邪気な恋人たちな走り回る刹那をキャッチすることを試みる。キャッチャー・イン・ザ・ライ!恋人たちが崖から落ちて別れることがないように上白石萌歌はリマインドを打ち込むのだった。

〈あいつのミラクルショット〉

ある方向へと止まることなく流れる川が映し出され、矢作が橋を渡る。絶え間なく流れる時のなかで、自らで選択をしていることに確かな自信を覚えている彼だったが…

軌道を計算し、球を突く。狙った通りに的球はポケットに沈む。不確定性の入る余地なんてどこにもない。ビリヤードのそういうところが好きだ。そして、それは人生も同じ。その時々の選択が確かな未来を生む。その結果として今がある。人生にIfなんてない。この現在は俺にとっての唯一解だ…

目の前に現れたもう1人の自分。藤子・F・不二雄SF短編集に収録されている『分岐点』のような「あのとき別の選択をしていれば…」という彼のもう一つの人生が現れるのだった。現在の自分は妻と楽しく暮らしている。ありえたかもしれないもう1人の自分は転職をきっかけに羽振りのいい生活を送っているらしい。現在の自分とありえたかもしれないもう1人の自分とでビリヤード対決が始まると、その自分ともう1人の自分の間にある違いがゆっくりと浮き上がってくるのだけれど、もう1人の自分が手玉を真っ直ぐにポケットに落とすことによって笑いを起こすというミラクルショットを魅せるのであった。未来はいくつにも枝分かれしていくが、今ある未来を正しくしていくしかない、しかし、ありえたかもしれない未来にある自分であっても、その本質的な違いはないのである、と。

この散々注意深く、念入りな準備を重ねながら、これから大技をしますよという深みを持たせて、手玉を真っ直ぐにポケットに落とすというミラクルショットはTBS『リンカーン』で矢作が小木を絶対に笑わせるスーパーショットとして有名であるのだ。ここにきて、どこの世界線にあっても、妻を、つまり相方を笑わせる矢作という、めちゃ遊び心のある設定になっているのも憎めない。

〈乙女、凛と。〉

1分前の自分に電話をかけ、アドバイスをもらい励まされる。私たちは過去からの積み重ねによって、現在があり、過去の行いによって未来は形作られていくと信じている。しかし、そうではなくて、日々の1分前の自分、つまり未来の他者からの影響によって、勇気づけられたりもするのだと描き出したのが本作である。『リマインド』が繰り返しのなかで自らの未来の糸口を発見していく円を描きながら前進していく物語であれば、『乙女、凛と。』は前後に行ったり来たりしながら少しずつ前へと進んでいく物語である。

あー 青い春をかけて
光る夏を抜けて
通り雨(そうだね)
森の陰 (それでよかったんだね)
フクロウの鳴き声
風が秋を奏で
白い冬の川辺
虹をこえ(ごめんね)
まだ見ぬ季節へ

「その時々の選択が確かな未来を生む。その結果として今がある」というのではなくて、「未来はもうすでに決定しているのであるから、安心して選択していい」というあまりにも優しいメッセージ。

 

最後、中年になった映画サークルメンバーは、またもう一度、映画を撮ろうと決意するのだ。大丈夫。きっと撮ることができるよ!と具現化した何かがみんなの目の前に現れる。