昨日の今日

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Netflix『栄光のチーム:ユヴェントス』

f:id:You1999:20210426094017j:image2020-2021シーズンが終わりユヴェントスの成績は4位。10連覇の夢は途絶え、なんとかCL権を確保するにとどまった。この下降は、2014-2019の間に5つのセリエA制覇、4つのコッパ・イタリア優勝、2つのUEFAチャンピオンズリーグ準優勝をもたらしてくれたマッシミリアーノ・アッレグリが退任したことから始まったのであった。マウリツィオ・サッリに指揮がうつると喫煙量の増加に伴って、チームは息切れを始めることになってしまい、スタディオ・ジュゼッペ・メアッツァを本拠地にする2チームがチームを作っている途中であったためになんとかセリエA制覇を成し遂げることができたのだけれども、2位インテルとの勝ち点差はわずかに1ポイント。これ以上の喫煙は百害あって一利なし。そこでサッリを解任し、クラブのレジェンドであるアンドレア・ピルロを緊急招聘することにしたのであった。しかし、彼はこれからU-23のチームにて監督キャリアをスタートするはずであったために、もちろん監督のキャリアは無く、いきなりトップチームに取り組まなければならなかった。さらには、コロナ禍による不安定なシーズン開始を過ごさねばならず、十分な補強もチームに哲学を浸透させることもできずに開幕戦を迎えることになってしまったのは不運であっただろう。監督経験のないピルロに果たしてユヴェントスの舵取りを任せられるのだろうか。このわずかな期間でチームは盤石な体制となっているのだろうか、という不安を募らせての開幕戦。しかし、頭にかかったそんな不安な靄を晴らしてくれるサンプドリア戦3-0という結果に安堵し、デヤン・クルゼフスキ、ウェストン・マケニーという新戦力への期待ものぞかせてくれた。と思っていたら、ローマ、クロトーネ、エラス・ヴェローナラツィオ、ベネヴェントと勝点1を積み重ねていくたびに晴れかかっていた靄が再び前方を見えなくさせる。ローマ、ラツィオとの引き分けを見逃すとしても、下位クラブとの痛み分けにはさすがに擁護しきれないものがあり、またその勝ち点の取りこぼし方もいただけないものであったことにフラストレーションを溜めることになる。掠れたユニフォームのラインのようにチームの強さは失われていく。そして、インテル戦で0-2という敗北を喫することで、偉大なビッグクラブは下り坂を歩んでいることを認めざるを得なくなる。チャンピオンズリーグもベスト16で終わり、セリエA後半戦もベネヴェント、ナポリミラン と勝ち点を失い、CL権を自分たちの結果を持って確実にすることもできなくなったけれども、ジャンパオロ・カルヴァレーゼが引き起こした恐ろしい試合を切り抜け、ナポリが勝ち点を取りこぼすことによって、クラブは最低ラインで止まることに成功した。しかし、もはや“栄光のチーム”であることを声だかに叫ぶことが難しくなったユヴェントスがかつてのレールに再び乗るということはいかにして可能であるか、というフロントやサポーターの問いは多くのものをもたらしてくれたマッシミリアーノ・アッレグリを再び呼び戻すことになり、2021-2022シーズンへと引き継がれていくとになるのだ。

前置きがめちゃ長くなってしまったのだけれども、今回このエントリーはアッレグリ再招聘と共に再びユヴェントスが復活するシーズンに期待しようということで、2017-18シーズンをカメラに収めたNetflix『栄光のチーム:ユヴェントス』をもう一度観てみようというものであります。このドキュメンタリーシリーズはまずもってユヴェントスというサッカークラブの偉大な歴史を説明し、集合写真の様子などを映したあと、クラブオーナーであるアンドレア・アニェッリが小さな積み重ねの先にある成功を手にしようと語るところから始まる。スーパーリーグ構想に着手していた会長が小さなステップの重要性を語っていることに皮肉を感じずにはいられないけれども、確かにユヴェントスというクラブにとって重要なことであるのだ。ブッフォンユヴェントスの誇りを語り、マテュイディ、ベルナルデスキ、シュチェスニー、ベンタンクール、ドウグラスコスタという新戦力もやってくる。そして、イグアイン、ディバラ、マンジュキッチケディラピャニッチクアドラード、サンドロ、キエッリーニとお馴染みのスカッドだ。彼らを束ねるアッレグリは就任からわずか3年で、120年のチーム史上、歴代3番目の最多勝監督になった。限られた戦力の中で最善のスカッドをデザインしてみせる手腕と、クラブOBモレノ・トリチェッリが語るには、

チームの皆が勝利にあぐらをかいていると、アッレグリが必ず何か言うんだ。それでみんなの目が覚める。彼の持つ素晴らしい才能だよ。

緩んだチームを引き締めることも担っていたのだった。そのあとにやってきたのがスパスパとタバコを吸う監督であったからチームに引き締めを与えるには難しいことであったろう。ユヴェントスは常勝チームであり、アニエッリが言っていた通り、まずは国内でしっかりと勝利することが求められる。ドキュメンタリーシーズンパートAの最後にはSSCナポリとの大一番が取り上げられ、ナポリからユヴェントスへ禁断の移籍を果たしたゴンサロ・イグアインへとスポットが当てられる。

ナポリにとってユーヴェは何としてでも倒したい宿命の相手だ。ユーヴェとの試合ではスタジアムが揺れる。特に去年、イグアインが初帰還した時は異様な空気だった

ジャーナリスト・ジョヴァンニ・ガーデラが話し、

南北間の競争意識は、地域間の根深い対立感情を生み出してきました。その影響はサッカーにも及び、特に1人の選手に向けられます。ナポリからユーヴェに移籍したイグアインです

ナレーションがこう伝えるように、南北に位置するこの2チームには歴史的な関係がある。イグアインナポリからユヴェントスへと移籍したことがどれほど大きなことであったのか、イタリアの南北問題とはどういったものなのか、などはフットボールチャンネルにて簡潔にまとめてありますので、是非。

www.footballchannel.jp

今年、2021年に公開された『ディエゴ・マラドーナ 二つの顔』では、イタリアにおける「南」が克明に映し出されている。北部ユヴェントスから南部ナポリへ向けて差別的なチャントが号令されるなどの様子があり、アルゼンチンのスターであるマラドーナはいつでも弱者の側に立っていたことに言及される。

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同じくアルゼンチンのエース、イグアインナポリからユヴェントスへ行ったのであるからそれは大変なことなのであり、北村暁夫『ナポリマラドーナ』には、イタリア→アルゼンチンからアルゼンチン→イタリアへの役割の逆転が起こったこと、それがイタリアの南北に配置されることが指摘されている。

 ドイツの文化人類学者アルント・シュナイダーは、こうした人の移動をめぐるアルゼンチンとイタリアの関係を「役割の逆転」という言葉で表現している。かつてアルゼンチンはイタリアにとって「約束の土地」であり、多くのイタリア人が「豊かなアルゼンチン」に憧れて移民をした。ところが、二十世紀末になると、世界経済における両者の位置が逆転し、今度はイタリアがアルゼンチンにとって「約束の土地」となり、多くのアルゼンチン人が「豊かなイタリア」に憧れて移民をする。つまり「役割の逆転」である。

 この「役割の逆転」を地理的空間のなかに位置づけてみると、いっそう興味深い。かつて、イタリアから「豊かなアルゼンチン」をめざして、人々は北半球から南半球へと移動した。しかし、現在では、アルゼンチンから「豊かなイタリア」をめがけて、人々は南半球から北半球へと移動する。まさしく典型的な「南北問題」の発現である。

 イタリアの国内には、十九世紀半ばの統一以来、「先進的な北」と「後進的な南」という図式が描かれてきた。それが「南北問題」である。けれども、その「先進的な北」の人々も、ある時期までは「豊かなアルゼンチン」=南半球に引き寄せられて移民をしていた。この状況では、北と南という空間配置に序列(ヒエラルキー)を設定することは困難である。

 これに対し、現在では、南のアルゼンチンから北のイタリア人へ人間が移動する。しかも、アルゼンチンからの移民はイタリアの北・中部だけでなく、南イタリアにも流入している。そして、北イタリアは相変わらず南イタリアに対して経済的な優位を誇示している。つまり、ここでは、北イタリアー南イタリアーアルゼンチンという南北の空間配置に沿った序列が形成されている。まさに、アルゼンチンは「南のなかの南」を表象するのである。p173-174

北村暁夫『ナポリマラドーナ

「南のなかの南」とされる彼が「南」のクラブから「北」のクラブへ行くことが、どれほどのことであったか。

ユヴェントスは強い。しかし、それはイタリア国内のことであって、なによりの目標はUEFAチャンピオンズリーグを制覇することにある。しかし、近年のイタリアサッカーには厳しい現状があり、ミランの10番であった本田圭佑

ユヴェントスが弱くなったら本当にイタリアは危ないですよ

などと言われてしまうほどであった。しかし、ユヴェントスはCLで勝ちきれず、その他のチームは再建ができるかどうかといったところであり、さらにはワールドカップ予選敗退も重なるという、なかなかどうして没落といった印象は強くなってきてしまっていたのだった。そして、迎えたCL準々決勝。トッテナム戦セカンドレグ。キックオフ前に、遠征先のホテルで心臓発作のため亡くなったアストーリへ向けた黙祷が捧げられる。ファーストレグで1ゴールを記録し、この試合にも出場をしていたエリクセンも、現在開催されているUEFA EURO 2020(新型コロナウイルスのために2021へ延期された)で、心臓発作によって倒れてたが、シモン・ケアーとチームドクターの応急処置のおかげでなんとか一命をとりとめている。本当に良かった。ケガ人が重なったチームは、23本のシュートを浴びながらも、無事に勝利を収めている。そして、現在のユヴェントスへとつながるレアル・マドリー戦。

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クリスティアーノ・ロナウドによる凄まじいオーバーヘッド弾に、ユヴェンティーニは拍手で応える。今年もダメであった。CL制覇を成し遂げるという長い夢を叶えるには何か変化が必要であった。この試合がきっかけとなり、CR7のユヴェントス入りを運命づけ、結果として131試合に出場し、3シーズン以内にユヴェントス通算100ゴールを達成した。しかし、それとは裏腹にユヴェントスは下降していくのであった。ハッピーマリッジとはいかなかったのである。ラスト、ジャンルイジ・ブッフォンユヴェントスを去るシーンでドキュメンタリーシリーズは終わる。今季、2020-2021シーズンが終わり、ジャンルイジ・ブッフォンはもう一度去る。そして、マッシミリアーノ・アッレグリが戻ってくる。2021年以内には、Amazonプライム・ビデオのオリジナルドキュメンタリーシリーズ『All or Nothing Juventus』が配信される。そこには、栄光のチームへ戻ろうとする姿が映し出されているのかもしれない。